
「陥没乳頭だから、母乳育児は無理かもしれない」──妊娠中や産後にそう感じて不安を抱える方は少なくありません。陥没乳頭は女性の2〜10%にみられ、珍しい状態ではないにもかかわらず、正しい対処法が十分に知られていないのが現状です。
陥没乳頭でも授乳は可能なケースが多くありますが、対策を講じるタイミングによって結果は大きく変わります。
本記事では、陥没乳頭を放置したまま出産を迎えるリスクと、妊娠前に備えておくことの重要性を中心に解説します。
陥没乳頭と一口に言っても、その程度は人によって大きく異なります。適切な対策を立てるうえで、まず自分の状態を客観的に理解することが重要です。
陥没乳頭は「仮性」と「真性」の2タイプに大別され、さらに医療機関ではGrade分類で重症度を評価します。妊娠期のうちに自分がどの段階にいるかを把握しておくと、産後に慌てずに済み、心理的な余裕にもつながるでしょう。
仮性陥没乳頭は、普段は乳頭が陥没していても指で刺激を加えると突出するタイプです。乳管の短縮が比較的軽度で、妊娠中のホルモン変化や適切なケアによって改善する見込みがあります。実際、妊娠前は陥没していたのに、産後に赤ちゃんが繰り返し吸ううちに乳頭が出てくるようになったという報告も珍しくありません。
一方、真性陥没乳頭は指で引っ張っても乳頭が突出しないタイプを指し、乳管周囲の線維組織が強く引き込んでいるため自力での改善が難しいという特徴があります。仮性か真性かで授乳へのハードルはまるで違い、対策の方向性も変わるため、この区別は最初に確認すべきポイントです。
医療機関ではさらに細かいGrade分類を用いています。
Grade Iはセルフケアで対応可能な場合がほとんどですが、Grade II以上は補助器具の併用や手術を視野に入れる必要が出てきます。自己判断が難しい場合は、産院の助産師や形成外科で客観的に評価してもらうのが確実でしょう。
「出産後に何とかなるだろう」と考えて陥没乳頭を放置したまま妊娠・出産を迎えると、想像以上のトラブルに直面する可能性があります。具体的には、以下のようなリスクが考えられます。
授乳の問題だけでなく、衛生面や精神面にまで影響が及ぶ点を知っておいてください。
赤ちゃんが母乳を飲む際には、乳輪全体を深く口に含んで舌と上顎で圧迫し、母乳を引き出す「ラッチオン」が不可欠です。陥没乳頭では吸い付くための突起が不十分でラッチオンが成立しにくく、赤ちゃんが何度試みてもうまく吸着できない状態が続きます。
乳管の開口部が適切に機能しない場合は、母乳の分泌量が十分であっても赤ちゃんが必要量を摂取できません。飲み取りが不十分な状態が続くと母乳が乳房内にたまり、次に述べる乳腺炎の引き金になります。
赤ちゃんが十分に飲み取れないことで母乳が乳管内にうっ滞すると、うっ滞性乳腺炎を発症するリスクが高まります。乳腺炎は乳房の激しい痛みや38度以上の発熱を伴い、悪化すると膿がたまって切開排膿が必要になることもある深刻な疾患です。
さらに、陥没した乳頭のくぼみには日常的に皮脂や汚れがたまりやすく、細菌が繁殖して乳頭周囲炎や乳輪下膿瘍を繰り返す原因にもなります。授乳期に限らず、衛生面でのリスクは妊娠前から存在している点も見逃せません。
「うまく吸わせられない」「赤ちゃんが泣いて嫌がる」──授乳がうまくいかないことによる精神的な負担も深刻です。ストレスホルモンの増加は母乳分泌を促すオキシトシンの働きを抑制し、さらなる分泌低下を招く悪循環に陥りかねません。
産後は育児と体の回復で余裕がない時期だけに、陥没乳頭の問題が重なると心身ともに追い詰められるケースが少なくないのです。

前述のリスクを踏まえると、陥没乳頭への対策は「産後に何とかする」のではなく「妊娠前に備えておく」のが最善の選択です。妊娠前であれば治療の選択肢が幅広く、回復期間も十分に確保できます。それぞれ詳しく見てみましょう。
妊娠中は手術を行うことができません。セルフケアとしてマッサージや吸引器の使用は安定期以降に可能ですが、乳頭への刺激は子宮収縮を誘発するリスクがあるため時期や強度に制約がかかります。真性陥没乳頭の場合はマッサージや吸引器だけでは改善が期待しにくく、十分な対策ができないまま出産を迎えてしまうことになりかねません。
産後は育児に追われて通院の時間を確保するのも容易ではなく、治療のタイミングはさらに遠のきがちです。
陥没乳頭手術は乳管周囲の線維組織を剥離し、乳頭を突出した状態で固定するもので、局所麻酔のもと日帰りで片側30分〜1時間程度で完了します。今後の授乳を予定している場合は乳管を温存する術式が選ばれ、授乳機能を守りながら形態の改善を目指せます。
妊娠前に治療を済ませておけば、術後の回復期間も十分に確保でき、万全の状態で出産・授乳に臨めるでしょう。なお、保険適用の目安は40歳未満で授乳予定がある方です。
ATSUKO CLINICでは形成外科専門医の女性院長が診察から術後ケアまで一貫して担当し、乳頭の突出と授乳機能の温存の両立を大切にしています。「自分の程度がわからない」という段階からでもお気軽にご相談ください。
妊娠前の治療が理想ではありますが、すでに妊娠中・産後の方にもできることはあります。具体的には、次のようなことができると考えられます。
効果には限界があるものの、知っておくことで産後の授乳トラブルを軽減できる可能性があるでしょう。
安定期(おおむね16週以降)に入ったら、乳輪の付け根を上下左右にやさしく引き伸ばすマッサージに取り組めます。オイルを使い入浴後の柔らかい状態で行うと効果的です。
仮性陥没乳頭であれば改善するケースも珍しくありませんが、妊娠32週以降は子宮収縮のリスクがあるため主治医への相談が必須となります。市販の乳頭吸引器も仮性には有効で、毎日装着して1か月ほどで効果が出始めるとする見解もあります。
産後は縦抱きやフットボール抱きで赤ちゃんの口の角度を調整し、乳輪ごと深くくわえさせる工夫が重要になります。親指と人差し指で乳輪の後方を挟むCホールドや、乳房を平たく圧縮するサンドイッチテクニックも有効です。また、授乳前に温かいタオルで乳房を温め、搾乳器で軽く乳頭を引き出しておくとラッチオンの成功率が上がるでしょう。
赤ちゃんの下唇が外側にめくれ「コクッ」という嚥下音が聞こえれば正しいラッチオンのサインです。ただし、こうしたテクニックを毎回の授乳で実践するのは相当な労力を要します。
乳頭保護器(ニップルシールド)は赤ちゃんがくわえやすい突起を作れますが、産後すぐの使用は不向きで母乳分泌が安定してからが望ましいとされています。母乳の移行量が減り分泌低下を招くリスクがあるためです。
搾乳器は分泌維持と乳腺炎予防の両面で有効ですが、哺乳瓶に慣れた赤ちゃんが乳房を嫌がる「乳頭混乱」には注意が必要で、流量を抑えた乳首を選ぶなどの対策が求められます。
こうした産後の工夫にはどうしても限界があり、苦労を経験するほど「妊娠前に治療しておけばよかった」という声が聞かれます。
「陥没乳頭 授乳 諦めた」で検索する方が一定数いる事実は、多くの方が苦しんできた証でもあります。搾乳とミルクの併用を経て完全母乳へ移行できた事例も報告されており、時間をかけて改善に向かう可能性は確かにあるでしょう。混合栄養や完全ミルクでも赤ちゃんは健やかに育つため、授乳方法を柔軟に見直すこと自体は悪い選択ではありません。
ただ、産後に追い詰められてから授乳を断念するのと、妊娠前に治療して万全の状態で臨むのとでは精神的な負担がまるで違います。もし現在まだ妊娠前で陥没乳頭に気づいているなら、「いずれ考えよう」と先延ばしにせず、今のうちに形成外科を受診しておくことを強くおすすめします。
マッサージや吸引器、補助器具を使ってもなお授乳が困難な場合や、真性陥没乳頭が妊娠前からわかっている場合は外科的治療が選択肢に入ります。陥没乳頭手術は乳管周囲の線維組織を剥離し、乳頭を突出した状態で固定するもので、局所麻酔のもと日帰りで片側30分〜1時間程度です。
今後授乳を予定している場合は乳管温存の術式が選ばれ、授乳機能を守りながら形態の改善を目指すことが可能になります。保険適用の目安は40歳未満で授乳予定がある方で、妊娠中は手術ができないため真性の場合は妊娠前の治療が理想的です。
ATSUKO CLINICでは形成外科専門医の女性院長が診察から術後ケアまで一貫して担当し、乳頭の突出と授乳機能の温存の両立を大切にしています。「自分の程度がわからない」という段階からでもお気軽にご相談ください。
陥没乳頭の手術についての詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】陥没乳頭の治し方|セルフケアから手術まで重症度別の治療選択と注意点
陥没乳頭は、将来の授乳に向けて「妊娠前」から適切な対策を取ることが何よりも大切です。ご自身の状態(重症度)によっては、早めの根本治療が推奨されるケースも少なくありません。将来の選択肢を広げ、安心して妊娠期を迎えるためにも、まずは一度ご相談ください。
真性やGrade II以上で保存的ケアに限界を感じたら、無理を続けるよりも早めに専門医へ相談するほうが授乳の可能性を広げることにつながります。「頑張りが足りない」のではなく「自分に合った方法を選ぶ」ことが、前向きな母乳育児の第一歩です。
大学病院をはじめ総合病院にて、幅広く形成外科手術一般を経験をしてきました。その経験を生かし、保険診療だけでは実現しない治療も美容医療という形で提供することで、皆様がより前向きで幸せな人生を送っていただけることを願っています。